開催レポート(文責・松岡厚志)



西宮に映画館をつくりました。

それは、オトナが作った本気の秘密基地。
 

震災後初の西宮映画館「シアターギミック」


西宮に映画館をつくろう。

それまではスローガンに過ぎなかった
このメッセージが、今まさに
現実のものになろうとしていた。

「震災後初の西宮映画館シアターギミック」

1ヶ月、正確には23日間の期間限定。
阪神・淡路大震災からちょうど10年となる
2005年の最後を締めくくる、
シネギミックの集大成とも言うべき
ビッグイベントのオープンを、
僕らは明日に控えていた。

掃除に始まり、イスの搬入、足場の設置、
機材の設営、会場の飾り付け、などなど。
連日深夜に及んだ突貫工事は
総動員されたメンバーの団結によって進み、
ひとつ、そしてまたひとつ、
映画館らしさを形作っていた。

スケジュールに無理があったことは否めない。

会場となるテナントの賃貸契約を結んでから
開催日までは期間が限られていたし、
実際に会場入りして、設営を行う時間は
本当にごくわずかだった。
広報するタイミングもなかったに等しい。

しかし、このチャンスを逃すと、
もう「シアターギミック」は
開催できないような気がしていた。

会場候補を何十件も足繁く探し歩き、
ついには見当たらず開催を半年延期、
ようやく手繰り寄せた「開催のチャンス」を
みすみす逃したくはなかった。

シネコン誘致が確定にした西宮の街において
「震災後初」となる映画館を、
何としても僕たちの手で生み出したかったのだ。

「わあ、映画館ができるんやって」

通りすがりの奥様が、
1オクターブ上の声を上げる。

そう、ここはシネギミックの映画館。
夢にまで見た、西宮の映画館。


記念すべきオープニング作品は

『僕は神戸生まれで、震災を知らない』

というドキュメンタリー映画。
かの有名な山形国際ドキュメンタリー映画祭
にも正式招待(2005年)された作品である。

震災当時、故郷の神戸を離れていて
直接被災しなかった「神戸出身」の自分
に対する負い目のようなもの、
と真正面から向き合ったこの作品。
監督自身がカメラを回しつつ、
その様子を収めたセルフ・ポートレート
の形式を取りながら、
その内容は実に示唆に富んでいた。

いま改めて問う、阪神・淡路大震災。
被災した方と、その思い。
過去から目を背けないことの大切さ…。

オープニング上映にあたっては、
元木監督に会場にお越しいただいた。
上映後には撮影の裏話など興味深いお話を
トークショーの形で聞くことができた。
この日の模様は地元放送局にも取り上げられた。

ただ、宣伝不足のおかげで満席とはいかず、
悔しさを覚えると同時に、
監督及び関係者に申し訳ない気持ちでいっぱい。

この思いをバネに、
これからの23日間を実りあるものにすること、
多くのお客さんと映画を「共有」すること。

シネギミックができることは、
唯一それだけだ。

怒哀楽 『ギルバートグレイプ』
『めぐりあう時間たち』
 
喜怒哀 『トレイン・スポッティング』

通常営業初日は、土曜日。
これまで実施してきた
1日限りの上映会の経験が、
土曜日の集客力を過信させた。

宣伝不足のために、出足の悪い客足。

しかしスタッフが実務に慣れる意味では
ひとりひとり丁寧に対応することができ、
逆に好都合だったのかもしれない。
シアターギミックのために集まってくれた
ボランティアスタッフたちも存分に活躍。
人もシステムも「成長」していく映画館だ。

肝心の上映プログラムは
「喜怒哀楽」にテーマ分けし、
第1週目を「喜」、第2週目を「怒」、
第3週目を「哀」、土曜夜を「楽」とした。
恋愛モノやSFモノなどとカテゴライズをせず、
映画を観て沸き立つ「感情」に着目したのだ。

第1週の上映作品は『ギルバートグレイプ』
『めぐりあう時間たち』の2作品に、
土曜夜限定上映の
『トレイン・スポッティング』。

そして、これらの作品をより魅力的にする
上映設備はスタッフの苦心によるもの。

全17席の、ゆったり座れる極上ソファ、
近距離で大迫力のスクリーン、
前方からも後方からも身体を包み込み音響、
そして性能が十分すぎる高性能プロジェクター。
深夜に及ぶ突貫工事により、
小ぶりながらも確かな「映画館」が生まれた。

ホームシアター以上ミニシアター未満の、
なんとも不思議な未体験空間に、
お客さんの感触も上々であった。

「こんないい空間なのに、もったいない。
 もっとお客さんが来ればいいですね」

励ましの声が届く。

よし、徹底的にビラ配布で宣伝だ。

哀楽 『シティ・オブ・ゴッド』
『ゴースト・ワールド』
 
喜怒哀 『夢のチョコレート工場』

タイトルだけ観るとおどろおどろしい、
「怒」のラインナップ。

特に『シティ・オブ・ゴッド』は
シアターギミックの上映作品中、最も過激。
これ、不肖松岡厚志のワガママ・セレクト。
どうしても大スクリーンで観てもらいたかった、
そして自分も観たかった(お金払って観た…)。
こういう「個人の思い入れ」がまかり通るのも
シネギミックの映画館らしい。

ちなみに土曜の『夢のチョコレート工場』は
『チャーリーとチョコレート工場』として
リメイクされる前の作品であり、
スクリーンで観れるチャンスの少ない作品。
それもあってか、初の大入りを記録。

第2週目ともなると運営もスムーズになり、
会場内の展示物をお客さんに解説する余裕も。
そう、今回は「映画空間」のみならず、
映画をきっかけとした「場」をつくろうと
様々なギミック(=仕掛け)を用意した。

まずは入場者に1枚渡されるコインを用いて
カプセルをゲットする「ガチャガチャ」。
楽しさが詰まったカプセルのような空間、
という裏テーマを展示物で表現した。
ちなみにカプセルの中身は当たりくじ付き。

次に、専門学校生によるアートワーク。
映画のポスターに着想を得た作品群が、
会場の待合ルームを所狭しと踊っていた。

最後に、シネギミックの活動経緯のパネル展示。
「場所×映画」の公式に立脚した過去の上映会を
西宮市内の地図と照らし合わせることで
一瞥できるよう、各データを公開した。
その目的は認知度の向上にあったが、それ以上に
「お客さんに話しかけるきっかけ」でもあった。

これまで実施してきた
イベント的上映会とは異なり、
これが初めてとなる、ある一定期間での開催。
お客さんに来てもらうだけでなく、
「どのように過ごしてもらうか」が
期間を通した課題だったのである。
 

喜怒 『ジョゼと虎と魚たち』
『蝶の舌』
 
喜怒哀 『メルシィ!人生』
『自転車吐息』

いよいよシアターギミックも最終週。

これまで
・昼シネマ(14:00〜)
・夕シネマ(17:00〜)
・夜シネマ(20:00〜)
と、1日3回の上映を行ってきたが、
どうしても昼シネマの客足は鈍かった。
平日だから、は言い訳にはならない。
ターゲットとしていた主婦層に
シアターギミックの存在自体が
認知されていなかったからだ。

しかし口コミが広がったせいか、
あるいは単純に『ジョゼ』人気か、
この週は順調な観客動員数を果たした。

土曜の『メルシィ!人生』は、
唯一スポンサーの冠がついた特別イベント。
日本酒メーカーの白鹿さん協賛による、
その名も「HAKUSHIKA NIGHT」であり、
映画上映後はお客さんにお酒を提供。
(もちろん保健所の許可は取得)
ちょっとしたパーティの趣を演出した。

ちなみに「HAKUSHIKA NIGHT」の前には
シネギミックのメンバーがドラムで参加する
「アランスミシーバンド」の緊急特別ライブ。
映画あり、音楽あり、お酒あり。
来場してくれたお客さん方にとって、
盛りだくさんなラッキー・デーだった。

また、1日だけあった祭日には
『自転車吐息』が上映された。
これは監督の園子温氏に直接コンタクトを取り、
特別に上映を許可された作品。
自主制作映画出身の
園監督作品を上映することで、
シアターギミックの多様性を
表現しようと試みたのである。

もう少し準備期間がシネギミックにあったなら
世に埋もれたインディーズの自主制作映画を
募集し、あるいは発掘し、
この空間で上映したかった。

喜怒哀 『ビッグ・フィッシュ』

安堵感から嬉しいような、
いやいや、やっぱり悲しいような、
無情にも訪れてしまったフィナーレ。

クリスマス・イブの今夜は
誰もが幸せになれる映画
『ビッグ・フィッシュ』を上映だ。

この日が最後、しかもクリスマス。
様々な好条件が重なり、めでたく満席を達成。
紆余曲折を経つつ、最後の最後で結果を出すのも
なんだかシネギミックらしい。
課題も山のように発見できたが、
まずは無事に最後を迎えたことを喜びたい。

ひとつ忘れてはならないのは、
映画館(及び映画空間)において
主役は絶対的にお客さんの側にあるということ。
運営スタッフが前に出るべきではない。

ただ、スタッフの挨拶に対する拍手があり、
上映後に団欒のひとときを共に過ごし、
そして予想だにしなかった
お客さんとスタッフの記念写真撮影があった。
シネギミックの活動を「応援してくれている」
という実感が確かにあった。

本当に、幸せ者だと思う。

この場に居合わせ、同じ時間と空間を共有した
すべての人に感謝したい。
そして、様々な面でこの企画を支援してくれた
協賛企業ほか多くの協力者の皆さまにも。

本当に、本当に、ありがとうございました!

HAPPY ENDING!